岸本知弘

2020.01.21

第79号「歯がある幸せ、歯がなくても幸せ」

歯科に対する想いはデカく、態度もデカいが見た目もデカくなりつつある、そんな岸本知弘が身の引き締まる思いで綴る徒然。
今回も最後までお付き合いいただきますよう宜しくお願い致します。
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幸せの価値観、これはホントに人それぞれです。
日々自院で診療しておりますと、様々な価値観に直面することがあります。
私は季節感やその時々の旬を大切にし、また大きく扱うのですが、昨年末も
「今年は医院の紅葉もキレイですね。ツリーの電飾も華やかですね!」
という方が居られるかと思えば
「クリスマス楽しいか?なんで鳥食べるねん。クリスマスも鳥も嫌いや!そこらじゅうチカチカして!」
という方も居られ、余り特化するとハレーションを起こすこともあるので気をつけたいところです。
餅は食べ方を間違えれば窒息死につながる危険な食べ物で海外ではサイレントキラーと呼ばれていますが、
日本人で新年に餅を食べる習慣について異議を申し立てる人は私の知る限り出会ったことがありません。
文化や伝統の裏付けもさることながら、各々の価値観は千差万別。
さて、歯に対する価値観も実は様々、というお話です。
歯科医師会は80歳まで20本の歯を残そうという「8020(ハチマルニーマル)運動」を推進しています。
この運動は平成元年に始まり、開始当初は80歳の残存歯数は8本程度、8020達成者は10%弱でした。
それが平成も終わる頃になると8020達成者は全80歳の50%を超えました。
この事は一つの社会運動の成功例としても取り上げられていますが、問題や課題も出ています。
その一つが「残存歯に対する価値観」です。
平成の時代【歯を残す】ことを優先しすぎたが余りに他の残存歯に悪影響を与える症例が増えました。
患者側から「今の歯科は歯を抜かないんでしょ!」と強く言われれば医療従事者側はたじろぎます。

火事は最初ボヤや小さな出火から始まりますが、放置することにより類焼し、やがて火災の規模は大きくなり最終的には辺りを燃やし尽くします。
歯や歯周組織においても同様のことが言えます。
当初は限局的であっても時間とともに被害は拡大し、歯を支える歯槽骨は吸収し、動揺が無かった歯も動き出し、やがて歯槽骨の吸収は隣在歯にも及び、原因歯のみならず周囲の歯も脱落し「歯抜け」になってしまいます。恐ろしいのは、その一連の過程の中で「全く痛みを感じることが無い」人もいることです。
長屋の火災現場において、まずは出火箇所の鎮火ですが、及ばない場合はその家屋を潰し類焼を防ぎます。
歯の保存は第一命題ですが、そこにこだわりすぎるが余りに隣在歯に迷惑をかけてしまう様な場合は、口腔内全体の健康を考え、抜歯という最終手段を用いてでも他を守らねばならない時があります。
【木を見て森を見ず】ではイケマセン。
人生の現時点のみを診るのではなく、およそ寿命を全うするまでの期間を常に健康な状態で過ごせるように今の時点から関わる、それこそが【かかりつけ医】の在り方だと考えます。
決して抜歯を推奨しているわけではありません。
抜歯せざるを得ないような状況の場合は躊躇せず抜歯に踏み切ることにより今後の健康回復の一助に寄与することもあるということです。
そもそも、事故等を除き歯がいきなり抜歯対象となるような状況になることは無く、その状況に至るまでの過程があるはずです。口腔内の微細な変化は自身とかかりつけ医が共に確認し合うことが大切です。
火災は初期消火が何よりも大切で、被害が拡大しそうな場合は破壊行動をもいといません。
歯の病気も同様です。
早期発見・早期治療ができれば、抜歯せずに済む歯も有る、かも知れません。
保存不可能な歯は抜歯をすることで次の処置が行えます。
デンチャー、ブリッジ、インプラント、と処置方法は様々ですが、適切な補綴処置を行い、しっかり噛み込める健康な口元へと機能回復し、日々のおいしい食事を楽しんでいただき、笑顔あふれる毎日をお過ごしいただければ幸いです。

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